■中森明菜のイメージ戦略
中森明菜のシングルヒットは、多彩な作詞家・作曲家によって支えられている。しかし、そのどれをとっても歌詞のイメージは以下の様に固定されている。
・不良少女的
・挑発的
・恋多き女
・エキセントリック
・自己破壊的
・魅惑的な女性
大方こんなイメージでしょうか。
彼女は、これらのキャラクターを表現力豊かに演じきったのです。その結果、ライバルの松田聖子に代表されるお利口さん的純愛ソングに飽き足らない層のハートを刺激して、一手に支持を引き受ける状態となりました。
彼女自身が、どういう性格や人と成りだったかということは、取りあえず横に置くとしても、歌う時の彼女のパフォーマンスはとても天性のものに見えたし、歌ごとに髪型や衣装を極端に変え、動きなどもセルフプロデュースしていたと言うことだから立派なものであります。
彼女は、戦略的アイドル像になり切ってその役割を十分にこなし、ほぼ3か月ごとの早いサイクルでリリースされるシングル曲を、次々とヒットへと導いた。おそらく寝る間も惜しんでのことでしょう。
■中森明菜の曲の歌詞を分析
彼女にはたくさんのヒット曲があります。レコード大賞にも二度輝いています。それらの中からいくつかの曲の歌詞について、先に述べた彼女のイメージキャラ戦略と引き比べながら、できるだけ詳しく述べてみましょう。
◇スローモーション
ある事情で、せっかくの素晴らしい歌詞を紹介できません。残念です。
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砂の上 刻むステップ ほんのひとり遊び
場の設定 動きの映像
振り向くと遠く人影 渚を駆けて来る
動作(動き) 遠景画像 動きのある画像
出だしのこの2行は、とてもビジュアル的で素晴らしい。近景から遠景を舐める形で空間の広がりを演出している。目に情景が見えるということが表現において大切なのです。
ふいに背すじを駆け抜けて
恋の予感甘く走った
・「駆け抜けて」、「甘く走った」
:動きのあるフレーズ
・「背すじ」「予感」
:肉体的な実感がベース
次の4行が曲のサビになる部分となる
出逢いは スローモーション
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恋の速度 ゆるやかに
私が、これまでずっと言ってきた「画像」と「空間的広がり」が表現されていることにおいて及第点をクリアーしている。ただ、初期の曲だからか、不良ぽさや挑発的なところは、この後の曲に譲られている。
◇少女A
これも紹介できません。残念です。
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「少女A」そのタイトルからして、犯罪性さえ感じるタイトルである。
上目使いに 盗んで見ている
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きっかけぐらいは こっちでつくってあげる
この4行の部分は、動作の表現であり、映像である。そして中森明菜の「不良っぽさ」「挑発性」がよく出ていて成功している。「口びるむらし」とは女の誘惑的な挑発場面として上出来な感じです。
「じれったい じれったい」の言葉からが歌のサビとして、最高の言葉選びになっている。「じれったい」という感情表現はインパクトがあり、他の言葉に置き換えられない最強ワードとなっている。
◇セカンド・ラブ
これも、紹介できません。残念。
「セカンド・ラブ」というタイトルそのものが、純愛を思わせるファースト・ラブに対するアンチな言葉を連想させる仕組みとなっています。
「セカンド・ラブ」とは、薄汚い女の打算的な肉体関係込みのイメージを思わせますが、歌詞の内容はちょっと激しめの純愛という感じです。明菜さんの不良っぽさと好感度の両方を狙ったのでしょうか。
◇desire
これも紹介できません。残念。
この歌の詞には中森明菜のすべてが凝縮されていると言えます。挑発的で、エキセントリックなフレーズの連続です。恋多き女の激しく燃え上がる恋を表現しています。
それをイメージとして決定的としているのが、
get up get up~~~Burnig love
のくだりです。はじめから激しく爆発的です。
そして、もう一つが
まっさかさまに墜ちてdesire
炎のように燃えて desire
の2行部分です。とくに画像イメージを伴う「まっさかさまに」の言葉選びは秀逸です。
このように、4曲の歌詞をざっと見てきましたが、珠玉の言葉選びがいかに曲全体のイメージを強く決定するということです。
人は、曲のすべての言葉によって印象を決定しているのではなく、曲想や効果的ないくつかの言葉で印象の9割は決定づけられていると考えた方がよいでしょう。

■中森明菜にエール
彼女は、既にたくさんのスタンダードナンバーを持つ押しも押されもしない歌手です。しかしスキャンダル以降は、なかなか人前で歌うことの減ってしまった彼女です。
2017年横浜ベイホテルでのディナーショーを最後に活動休止?状態の彼女ですが、本人だけでなく、ファンにとっても辛いことだと思います。
私は思うのですが、彼女がホントに歌が好きで歌い続ける人生を愛しているのならば、自分の好きな歌を好きなだけ歌うことで生きていくのが一番だと思うのですが。
アイドル時代の作られた自分のイメージを脱ぎ捨てて、60絡みの一人の女が年季の入った絶妙な歌唱力で好きな歌を歌えばいい。場末の酒場で、彼女がピアノにもたれかかってブルースやジャズを歌うなんて姿も是非拝めるものなら見てみたい気がします。
愛と人生のどん底を見た彼女だからこそ歌える世界というものがあろうかと思います。せっかくですから、宇崎さん夫妻あたりが気の利いたブルースでも作ってあげたら、きっと様になるかも知れません。
「まっさかさまに 墜ちてdesire」「私は恋の難破船」、自分の歌の歌詞が彼女の人生を表すような状態になってしまいましたが、歌さえあれば彼女は幸せになれるはずです。
これからの彼女の人生にエールを送ります。


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