メイクドラマ曲 その2 「燃えるキングストン」の場合

メイクドラマ

メイクドラマ2

私は常々、「名曲作りの早道はドラマ仕立ての曲作り」だと主張しています。それは、このシンガーソングライター入門講座の最大のキモとなるものです。

そのメイクドラマの第一段の例示として、先に「悲しいほどお天気」(松任谷由実作詞、作曲)を例示して論評しました。

さて今回がその第2段となりますが、「燃えるキングストン」について語らせていただきます。これは西岡恭蔵氏による1981年にリリースされた6枚目のレコードアルバム「ニューヨーク・トゥ・ジャマイカ」の2曲目の収録曲で、後にCD化されたものです。

発売はもうすでに40年ほども前になるのですが、未だこれを超える壮大な日本人のロック曲(レゲエ調リズム)は少ないと思います。私はもちろんアルバムレコードを持っていましたが、CD化された時にそれもどうしても欲しくなりました。

私の個人的な悲しい思い出

1999年3月のことです。私はCD化されたこのアルバムを注文するために、なんと西岡氏本人の携帯に直接電話をしてしまったのです。

なぜ単なる一ファンであるこの私が、恭蔵氏の携帯電話番号を知っていたのか、自分でもあまり記憶がないのですが、多分当時の公式のHPには、いろいろな情報が載せられていたのでそこから知ったのだと思います。

恭蔵さんは、突然受けた私からの電話にこともなげに電話に出て、私の依頼に承諾をくださったのです。CD化されたとは言え、レコード発売から約18年後の出来事なわけです。

それほど、そのアルバムが私の心をとらえ続けてきたと言うことでもあります。そして、サインと共に99.3.5と添えられたCDが直ぐに送られてきました。今思えば電話で話した時に、アルバムの依頼だけでなくもっとたくさんのことを話しておけば良かったと後悔しているものです。

というのも、その直後の4月はじめには恭蔵氏の訃報を新聞で知ることになったからです。その時の本人の心境を知ることはできませんが、偉大なミュージシャンが逝かれたことの辛さは大きいです。

では以下に、曲の詞を紹介します。

「燃えるキングストン」

作詞:KURO 作曲:西岡恭蔵

“説教なんて もうたくさん” と
俺に向かって 奴らが叫ぶ
山から取れた 遠い天国行きの
強い葉っぱの 残り火で
キングストンの街に 火を点けたのさ
炎よ すべてを 今焼きつくせ

Burrnin‘ ……… (バックコーラス)
Down The Kingston Town (バックコーラス)
奴らが火をつけたのさ
Burrnin‘ ……… (バックコーラス)
Down The Kingston Town (バックコーラス)
夜空を焦がして Ye!

“黄色いお前は 黒い俺たちと
兄弟なんだ” と奴らは笑う
Get Up Stand Up 奴らは唄い続ける
長い夜が明けるまで
1980 Summer キングストンの街は
時代に巻かれて 今燃え上がる


Sing………  (バックコーラス)
By The Wailers Sing (バックコーラス)
世界を取りもどそうと
Sing………   (バックコーラス)
Black People’s Sing  (バックコーラス)
夜明けは見えたと Ye!

曲のドラマ性と分析

すでに詞調からも伝わるとおり、論評するには恐れ多いほどの大作とも言えるこの曲ですが、2拍目の裏拍の強いレゲエのリズムで構成されたこの曲、その出だしからして実に挑発的な文言の連続です。

Burrnin ……… などバックコーラスが実に効果的な曲でもあります。

是非、アルバムで聞いて欲しいものです。ライブでの弾き語りよりも恭蔵さんの場合には、アルバムのフルアレンジで聞くのが一番です。
アレンジが職人技のように実に凝っています。

因みに、この曲のアレンジは鈴木茂さん、あの伝説のグループ※「ハッピーエンド」のギタリストだった人です。道理でイントロからしてすでに不思議なサイレンのような音が効いています。まるで風雲急を告げるかのような煽り方が内容にぴったりとマッチしています。

<この曲のドラマ性とは>

私は、この曲の印象を「革命」の映像に例えたい気がします。ジャマイカの人民の怒りが爆発して革命を起こすとか、大きな政変が起こった様子を連想してしまうのです。まさにそのような過激な内容の詞であります。

1980年のジャマイカに、そのような事件が起こったという歴史記述は見当たりませんでした。ということは、この地を訪れたKUROさんと恭蔵さん夫妻がそのようなイメージを抱いて創作したのがこのメイクドラマだということになるのでしょうか。

そのドラマ的様子がありありと浮かぶような映像を伴うくだりがたくさんあります。人々が首都キングストンの街に火をつけ、自分たちの要求を掲げて革命を起こしたようなイメージであります。

しかも、カリブ海諸国の人々は貧困の中でも案外と明るい。


Sing………  (バックコーラス)
By The Wailers Sing (バックコーラス)
世界を取りもどそうと
Sing………   (バックコーラス)
Black People’s Sing  (バックコーラス)
夜明けは見えたと Ye!

リフレインされるこのフレーズでは、「世界を取りもどす」とは「自分たち市民が主役となる世界をとりもどす」という意味だろうし、「夜明け」とは「革命の成功は近い」という意味でしょう。

それだけでなく、政治への影響力の強かったボブ・マーリーへのリスペクトがはっきりと見て取れます。

Sing………  (バックコーラス)
By The Wailers Sing (バックコーラス)

「The Wailers」とは、ボブ・マーリーと音楽を共にしたバンドであります。これら、バックコーラスの美しい唄声は曲全体を全面的に下支えしています。

ボブ・マーリーは、レゲエの創始者たる世界的なミュージシャンの一人であることに留まらず、ジャマイカの英雄であり政治的にもかなりの影響力を有する人でした。

これほどの一大スペクタル映画を見ている気分にもなりそうな歌が、日本人の西岡恭蔵氏夫妻の手で遠いカリブ海の国を題材に作れたということにスゴさを感じます。

それと私は

“黄色いお前は 黒い俺たちと兄弟なんだ” と奴らは笑う

このくだりがとても気になります。

日本人を「黄色いお前」といい、自分たちジャマイカ人を「黒い俺たち」と規定する大胆さだけでなく、「兄弟なんだ」とは、共通の敵は「白い奴ら」なんだということをはっきり示しているのです。

アジアもかつては欧米に搾取されたのと同じように、現在のジャマイカ人の祖先がもともとは奴隷として、アフリカから連れてこられた人々であるということと関係しています。

このような遠い祖先の記憶を受け継いでいることが作品の時間的奥行きを演出しているものであろうと思います。
そして夜空を焦がしながら燃え上がるキングストンの街のイメージは壮大な空間的広がりを思わせるものです。

Burrnin‘ ……… (バックコーラス)
Down The Kingston Town (バックコーラス)
奴らが火をつけたのさ
Burrnin‘ ……… (バックコーラス)
Down The Kingston Town (バックコーラス)
夜空を焦がして Ye!

このように「首都が燃え上がり、焼き尽くされる」というような映像は、とても強烈です。もしこれを映画化するならば、例えばあのスタジオジブリが率先して迫力のあるアニメ映画にすればいいのではと思ったりするのは私だけでしょうか。

今現在、これを書いているこの瞬間にも、実はロシアの軍隊によるウクライナ侵略が進行しています。とても辛い気分のまま書き続けることになりそうですが、この歌のように名も無いロシア市民の革命的な立ち上がりを期待したいものです。

ロシアには悪夢のようなソ連時代の共産主義支配や独裁者の専制ではなく、本当の意味での市民革命が必要です。それを祈ります。

さて、最後ですが西岡恭蔵氏はアルバムも多く、名曲はここに紹介した「燃えるキングストン」だけでなくたくさんあります。
そこに一貫して流れるのは彼の温かい人間性に裏打ちされたヒューマニズムであり外国人や子どもたち、家族へ向けられた愛などが意志として強く反映しています。

恭蔵さんよりも先に亡くなられた奥様のKUROさんも天才的作詞家でお二人のコンビによる作品は秀逸なものが目白押しです。

奥様の詞を題材にした30曲入りのトリビュートアルバムも恭蔵氏の生前には出されています。いつか、KUROさんにスポットを当てた曲紹介も面白いと思います。

偶然ですが、KUROさんの詞で「聞こえるかい」という湾岸戦争を題材にしたロックの名曲があり、ロシア対ウクライナの戦争のただ中にある今、紹介することも意義があるように感じられます。

ロックとは、もともと反体制の魂を持って始まった音楽でありますから、是非その精神を込めて紹介してみたいものです。

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※歌詞に麻薬を連想させる言葉が入っていますので、もしかしたら公共放送などでは放送コードに引っかかるのではないかと危惧されますが、このような名曲を見えなくするのはもったいないことです。嬉しいことにYouTubeでは、聞ける可能性が高いです。

※「ハッピーエンド」:1970年代の知る人ぞ知る伝説のバンドです。
細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、鈴木茂の4人メンバーでアルバムを2つ残して、3年ほどで解散。その後、音楽はティンパンアレーに引き継がれていく。

※You Tubeで音源を紹介できればと思い検索してみました。

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