作詞は「95%のフィクションと5%の経験で書く」くらいがいい
この言葉は松本隆氏の作詞についてのざっくりとした理論のようです。95%のフィクションですから、ほぼほぼ新しいドラマを作るということだと思います。
どうですか? これまで私が主張してきたことと符号していると思いませんか?
つまりメイクドラマとは、自分の思いを不用意に綴るのではなくドラマとしての情景や人物に映像として語らせるという手法を意味します。
いいですか。個人的な想いを下手にダラダラとした言葉にしてはいけません。絵として遠景、近景を駆使したり、動的に動きをつけたり、質量の高いキーワード的な言葉を使用したりします。
例えば、固有名詞とかが有効だったりします。それらを松本隆氏のヒット曲にそって例示してみましょう。また、色にまつわる表現も時として有効です。
サンプルとなる歌詞は、いずれも名作揃い
・木綿のハンカチーフ
・ルビーの指輪
・赤いスイートピー
・さらばシベリア鉄道
・君は天然色
・スローなブギにしてくれ
・風をあつめて
取りあえずこのような歌の歌詞を見てみたいと思います。
木綿のハンカチーフ
この歌は、松本氏にとってはメモリアルな作品と言えるものだと思います。所属していたグループの「はっぴぃえんど」は、細野氏と大瀧氏によって解散が決められ、いわば失業状態となって路頭に迷うような状況だったようです。
そこへきて歌謡曲の歌詞の依頼を受け、筒美京平氏とのコラボレーションが実現したことは非常にラッキーだったのかも知れません。結果は幸いなるかな、「木綿のハンカチーフ」はよくヒットして、とても話題を呼ぶことになりました。その歌詞は以後、事あるごとに話題に上がり続けています。どうしてこの歌の歌詞がこれほど話題に上るのでしょうか。
この歌の内容は、恋人の男性の言葉(台詞)ではじまり、交互に手紙のような内容の言葉の掛け合いをする形で話が進んでいきます。
恋人を残して、地方から東京に出ていく場面から始まります。男性はだんだんと都会の水に馴染みながら、発展していく自分の姿を恋人に見てもらいたくて、やや舞い上がり気味です。
一方、地方に残された恋人は彼の変わっていく姿よりも、一日も早く帰ってきて欲しいと願い続ける一途な女性のすれ違う思いが綴られています。この歌を聴く人は、そのすれ違いメロドラマのじれったさにシビレを切らすような思いに駆られるのです。
これらの手紙仕立ての台詞の流れは、まさにドラマ仕立ての男女の姿です。これが松本氏本人の言うところの95%のフィクションというやつでしょうか。この歌における時間的奥行は、男性の変わっていく過程として表現されています。それが、ドラマ展開の代わりをしているのでしょう。
そして何よりも、この歌の成功はこれ以降に松本氏が台詞仕立てのドラマ(フィクション)手法を次々に成功させていく、その始まりとなったと思われます。
ルビーの指輪
この歌詞にも、私のにらんだ通り「台詞」が如何なく生きています。
「そうね 誕生石ならルビーなの」(女の台詞)
「孤独が好きな俺さ
気にしないで行っていいよ
気が変わらぬうちに早く
消えてくれ」(男の台詞)
男の強がりか優しさか感じられる。
しかし、それから二年の月日が流れた後の男は、まだその時の喪失感を拭いきれずに女の面影を街中の雑踏の中でさえも追いかけているという、男の悲しさや哀れさがある。
それが、ビジュアルな映像として、ベージュ色のカラフルさを伴いながら語られるのは、やはり希な才能の松本氏の台詞回しの妙によるものである。
2年という時間軸としての奥行きも、街中で女性の面影を目で追うその空間的広がりや動き等が、このドラマに深いdetailを添えている。
この歌は大ヒットしました。これを作曲しエレキを抱えてロックスタイルで歌う寺尾聡氏は、俳優で有名だが、若い頃は「ザ・サベージ」というGSのメンバーだったこともあると言います。妙に絵面がよくはまっていたのはそのせいでしょうか。
スローなブギにしてくれ
作曲:南佳孝 作詞:松本隆
Want you 俺の肩を抱きしめてくれ
生き急いだ男の夢を憐れんで
Want you 焦らずに知り合いたいね
マッチひとつ摺って顔を見せてくれ人生はゲーム誰もが自分を
愛しているだけの悲しいゲームさWant you 弱いとこを見せちまったね
強いジンのせいさ おまえが欲しい人生はゲーム互いの傷を
慰め合えれば答えはいらないWant you 俺の肩を抱きしめてくれ
理由なんてないさ おまえが欲しい
おまえが欲しい
この歌詞も、私が指摘したとおりに台詞仕立てになっています。
主に上の下線部分が、台詞仕立てになっている部分です。
しかも、その内容はとてもダンディで男を感じさせる語感になっています。これは、角川映画の主題歌として作られたものですから、映画の内容にイメージを合わせてあるのだと思います。
作曲の南佳孝氏はとてもロックテイスト強いお方だとお見受けします。そして映画も見てみたい気分になります。因みに作品は浅野温子さんと古尾谷雅人さんの青春映画だそうです。
大瀧詠一氏とのコラボレーション
さらばシベリア鉄道
哀しみの裏側に何があるの?
涙さえも氷つく白い氷原
誰でも心に冬を
かくしてると言うけど
あなた以上冷ややかな人はいない君の手紙読み終えて切手を見た
スタンプにはロシア語の小さな文字
独りで決めた別れを
責める言葉探して
不意に北の空を追う(リフレイン)
伝えておくれ
十二月の旅人よ
いついついつまでも待っているとこの線路の向うには何があるの?
雪に迷うトナカイの哀しい瞳
答えを出さない人に
ついていくのに疲れて
行き先さえ無い明日に飛び乗ったのぼくは照れて愛という言葉が言えず
君は近視まなざしを読みとれない
疑うことを覚えて
人は生きてゆくなら
不意に愛の意味を知る(リフレイン)
これは、明らかに女性と男性の手紙のやり取りの形態である。フレーズのかたまりごとに男女が入れ替わって、相手に思いを伝えているという形になっている。
女性から男性へ送られた手紙 → 手紙を読んだ男性の思い
女性から男性へぶつけられる思い → それを受けた男性の弁解じみた思い
このような順序で表現されている。
これは、「木綿のハンカチーフ」の台詞のやり取りスタイルとほぼ同じ展開である。交互に男女の思いを語る言葉が交わされるのだが、それはうまくかみ合わずにすれ違っているような悲しいドラマを演出している。
それは、俗にいうすれ違いメロドラマのようにも見えるが、やはり多くの人は、ハッピ―エンドやコメディよりも悲劇を好むものらしい。そこが受けるのか。
ここでは、もう一つ「言葉選びの妙」についても記憶しておこう。「白い氷原」「ロシア語の文字」「トナカイの瞳」そしてタイトルの「さらばシベリア鉄道」などは、一つの広大な、そして荒涼としたイメージの世界観を表現している。
かつて、シベリア鉄道は何日もかけてモスクワを経由し、ヨーロッパ方面に貧乏旅行をするバックパッカーたちが大勢いた。何日もの間、さして変わらぬ景色の大平原を抜けていくその様は旅行ではなくユーラシア大陸の「気まま旅」のイメージが強かったものだ。
君は天然色
くちびるつんと尖らせて
何かたくらむ表情は
別れの気配をポケットに
匿していたから机の端のポラロイド
写真に話しかけてたら
過ぎ去った過去しゃくだけど
今より眩しい思いではモノクローム
色を点けてくれ
もう一度そばに来てはなやいで
美しの Color Girl夜明けまで長電話して
受話器持つ手がしびれたね
耳もとに触れたささやきは
今も忘れない思いではモノクローム
色を点けてくれ
もう一度そばに来て はなやいで
美しの Color Girl(3番 省略)
この曲には、松本氏の妹さんが若くして亡くなられたときの、ショックから立ち直る過程で書いたものだという話をされていました。
キーワードの言葉がいくつも隠されています。「別れの気配をポケットに匿す」「ポラロイド」「思い出はモノクローム」etc. これらは、いづれも「思い」を語る言葉ではなく、詩的表現です。
つまり、大切なのはアジテーションではなく、「表現」なのだということがあなたには解ってもらえるでしょうか。
妹さんを無くした時の失意の仲では、渋谷の街がモノクロームの状態にしか見えなかったとのことです。そこに、「思い出はモノクローム 色を点けてくれ」というフレーズの原点があるのです。
松田聖子ヒット曲、呉田軽穂(ユーミン)とのコラボレーション
・赤いスイートピー
春色の汽車に乗って
海に連れて行ってよ
煙草の匂いのシャツに
そっと寄りそうから何故知りあった日から
半年過ぎても
あなたって手も握らないI will follow you
あなたについてゆきたい
I will follow you
ちょっぴり気が弱いけど
素敵な人だから
心の岸辺に咲いた
赤いスイートピー四月の雨に降られて
駅のベンチで二人
他に人影もなくて
不意に気まずくなる何故あなたが時計を
チラッと見るたび
泣きそうな気分になるの?I will follow you
翼の生えたブーツで
I will follow you
あなたと同じ青春
走ってゆきたいの
線路の脇の つぼみは
赤いスイートピー(以下 省略)
女心を、男性の松本氏が良くとらえて表現しています。それに、ユーミンの作曲したメロディーが付き、最強コンビのコラボレーションとなりました。
ちょっぴり気が弱いけど
素敵な人だから
このフレーズは、松本氏が男性を無敵のマッチョとはイメージしていないこと、むしろどこか、弱さにある存在としてリアルさを表現していることが解ります。
「春色の汽車」「心の岸辺」は松本氏の造語でしょう。因みにこの歌がヒットした時点では、まだ赤色のスイートピーは存在しなかったのだそうです。今では赤い色の花もあるそうですが。
省略した部分には、「あなたの生き方が好き」というくだりがありますが、私は、ユーミンの「卒業写真」の歌詞に「あなたの生き方を忘れないで」というフレーズがあり、女性が男の生き方を見ているというところに共通点を見つけました。
「風をあつめて」は省略します。これは難解な曲でもあるのでまた別の機会に。


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