泉谷とその時代
泉谷しげるという人物、今でこそテレビドラマで気のいいジジイ役をして茶の間の騒がせてはいるが、もともとミュージシャンなのです。
それも、かつては毎年必ずアルバム作りを真面目に出していたので、相当の数のアルバムが世に出ているはずです。ところが、泉谷と言えば「季節のない町に生まれ~♪♬」ではじまる歌「春夏秋冬」だけが知られていて、僕などは「もっと他にいい歌がたくさんあるのに」と残念に思うのです。
まあ、テレビ向きの曲ではないものもたくさんありますが、名曲もたくさんあります。一番いいと思うのは、「80‘バラッド」と「都会のランナー」の二つのアルバムはロックバラードアルバムとして、とても出来がいいと思うのです。
もともと、70年代初期にフォーク畑の一翼を担って登場してきた人なので、その頃はフォークのジャンルの中で、たくさんのアルバムを出していました。
もしかしたら、その頃の方がよくアルバムは売れたのかも知れません。その頃の名曲もたくさんあります。ぱっと思いつくだけでも「春のからっ風」「大通りを横切って」「眠れない夜」「巨人はゆりかごで眠る」「北の詩人」「彼女と彼」「寒い国から来た手紙」「国旗はためく下に」等々です。(「北の詩人」という歌のイントロ部分でアコースティックギターの音がとてもいいのです。)
それから、この方は当初よりメディアの放送禁止の自粛コードに触れた曲も多く、「黒いカバン」「戦争小唄」などはその最たるものです。
私の高校時代、初めて聞いたフォークのライブでいくつかの組の一人として泉谷氏も登場したことがありました。
しょっ鼻の開口一番で「この中にも(観客の中にも)この夏に処女を捨てた女も多くいることだろうが~」というようなことを口走り、とんでもないことを言うヤツだと思った記憶があります。まぁ、そのような彼のキャラはラジオの深夜放送などでよく知っていたので、免疫は十分だったのですが。
その後、私の住む田舎街でも数回はライブを見に行きました。ライヴでの彼の登場の仕方には一つのお決まりとしての暗黙の約束のようなものがありました。
それは、先ず客たちのほうから「泉谷!出てこい!!」のような挑発的なコールがかかり、それに呼応するようにして「なんだ!文句あるか!」のようにして登場するというものです。喧嘩腰の始まりです。
曲間の破天荒で笑えるトークも一つの見どころでした。そして興が乗ると曲数の出し惜しみをしないサービスの多いライブで、僕らの世代はかなり彼の事を知っていて、本当は照れ屋の気のいいオヤジだと思っているのです。
70年代に入った当時のフォークブームには、体制批判の空気の強かった68・69年の学生運動敗北や若者たちの挫折感からくるやるせなさの受け皿として機能していた感がありました。
ですから、テレビドラマで気のいい人情オヤジのようにして出てくると、僕らは「テレビに出る暇があれば、土佐回りでもして歌えよ!」と思ってしまうのです。
でも、やがてライブ活動は少なくなり、彼と同じ世代のミュージシャンは引退や病気療養の憂き目に合うことも増えてきたようでした。この世代の熱がどうも次の世代に伝わり切れていないように思います。
良くも悪くも、これら「団塊の世代」がけん引してきたこの国のカルチャーが収束していくなかで、私は彼らの残した音楽レベルだけは継承して欲しいと思うものです。
泉谷しげる初期の歌
泉谷さんについては、シュールな曲というカテゴリーで一度記事を書いております。主にアルバム「80’バラット」の中から曲紹介をしています。そちらのお方もチェックして欲しいのですが、今回は彼の前期の曲について触れてみたいと思います。
前期とは、アルバム「80‘バラット」以前を私が勝手に前期と称しているものです。そこを分岐点にしたのには私なりに意味があります。それは、「80’バラット」がロックバラードの確立に寄与しているものとして、それ以前をフォークテイストの強いと言う意味で前期とするものです。
1st…春夏秋冬(1972) エレックレコード
2st…地球はお祭り騒ぎ(1972) エレックレコード
3rd… 光と影(1973)エレックレコード
4th… 黄金狂時代(1974)エレックレコード
5th… 家族(1976)フォーライフ
6th…光石の巨人(1977)フォーライフ
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7th…80’バラット(1978)ワーナー・パイオニア
8th…都会のランナー(1979) ワーナー・パイオニア
9~22nd
ベストアルバムやLive,スタジオ・アルバムなど、これまでの全部を合わせると40作品を有に超えるリリースが成されていて、曲作りにアグレッシブな気質が伝わってきます。
初期のものの中で、私的に印象に強い曲を揚げると、以下のようなものになります。フォークのイメージが強い曲です。
◎春夏秋冬 ◎黒いカバン
◎帰り道 ◎街はぱれえど
◎ブルースを唄わないで
◎春のからっ風 ◎ひとりあるき
◎おー脳! ◎国旗はためく下に
◎眠れない夜 ◎暗闇街丑松通
◎火の鳥 ◎北の詩人
◎彼と彼女 ◎家族
etc
YouTubeなどで、たいていのものは聞けると思います。彼のミュージシャン性を聴いて見られることをおススメします。毒があり、独創的でありながら、音楽性も実は高いのですから。自由で本音が感じられる歌とはこういうものでしょうか。
其の中で一つ紹介します。この歌は、「労働者」としてのキャラクター設定が上手く成されています。しかも、底辺労働者としての設定が曲の背景とドラマとしての安定した印象が納得を聴く者に与えます。
「労働者」設定の歌が珍しいものであると同時にアコースティックギターの旋律のすばらしさ、ハーモニカの効果的な挿入は見ものです。
北の詩人
あの娘が空へととんだ時
ぼくはとても忙しかったので
電話で話すは言い訳ばかりで
できれば知らせてほしくはなかった兄貴が海へ沈んだ時
となりの夫婦は いつものケンカで
テレビの前では子どもが踊り
オヤジは今日も野球を見れないユメを見てるのは俺だけじゃないはず
息切れする頃に知らせてきて
ユメを壊すはありがたき家族
もっと遠くへ もっと遠くへ届かないと所へ妹が夜を好きになった時
組合ストは中止になり
彼らはシワよせ わめきちらし
八つ当りは又 もろに受けておいらがパレードに出なくなった時
彼らは白い目をむき出して
当たりはずれは もう慣れっこさ
遅かれ早かれ 長居は無用ユメを見てるのは俺だけじゃないはず
息切れする頃に知らせてきて
ユメを壊すはありがたき家族
もっと遠くへ もっと遠くへ
国旗はためく下に

北の詩人 泉谷しげる 1974
国旗はためく下に


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