◆1960年代のアメリカ合衆国は公民権運動の真っ只中でした
同時に、世界情勢は東西冷戦の時代。アメリカではケネディ大統領の登場とキューバ危機による海上封鎖が、スクリーンの中でテレビに映っていました。
この時期、ソビエト連邦がキューバに核ミサイルを配備しようと企てた折に、それをケネディ大統領が海上封鎖により阻止したという事件が起きました。米ソの交戦による核戦争の危機がもっとも迫っていた時期でした。
その一方で黒人などの公民権運動が盛り上がり、キング牧師の暗殺事件などが有名です。ボブ・ディランはそのような時代背景を背にして現れた時代の申し子だったに違いありません。
その歯に衣着せぬはっきりとした主張はドラマ仕立ての作風であったり、直接的な社会批判の内容であったりしました。彼は、いつの間にか公民権運動の旗頭のような存在としてシンボルに祭り上げられた感があります。
このように、時代状況や社会背景と音楽や歌との関わりがこれほどダイナミックだった時代もめずらしく、それは70年代になってからもベトナム戦争が終結するまで当面続くことになるのです。
◆フォーク(ソング)の盛り上がり
カントリーミュージックにルーツを持つ「フォーク(ミュージック)」はウッディ・ガスリーやピート・シーガー等による興隆を見せ、その後継者?的な存在として登場したボブ・ディランの人気は急上昇しました。
「風に吹かれて」「時代は変わる」「戦争の親玉」「ライク ア ローリングストーン」等など、次々と繰り出された歌はどれも刺激的で時代を反映していました。
日本には、カレッジ・フォークとして入ってきていたフォーク曲の「花はどこ行った」、「ドナドナ」、「パフ」などの歌とは一味も二味も違う、過激さとしゃがれた声のインパクトは日本のフォークシンガーにも多大な影響を与えましたが、我々庶民にはなかなか詳しい情報は入りませんでした。
ただ、ディランのアルバムレコードの歌詞カードには片桐譲氏による訳詞がついていたことがとても異例のことでした。
◆映画「名もなき者」
さて、映画の話題に戻りますが、主演のテモシー・シャラメ氏の歌のうまさと、ボブの声色に非常によく似ていたことが秀逸でした。他にもたくさん登場した当時のシンガーに扮したそれぞれの俳優のどれもが、素晴らしい歌の出来栄えで映画の質の高さを示していたとは、ラジオDJのロバート・ハリス氏の話でした。
確かにジョーン・バエズ役の女優の歌のうまさも相当なもので、この映画の良いスパイスとなっていました。
1961年、ディランがミネソタからヒッチハイクでニューヨークに出てくるところから映画は始まり、瞬く間に人気者となったディランが1964年ニューポートの音楽祭で周りの反対を押し切ってエレキギターを手にして観衆の前に現れ、歴史的な騒動が起こるところまでが描かれています。
当時は、もう一つビートルズをはじめとするロック音楽の胎動が世界的なムーブメントとして起こっていました。当然ボブは、音楽がロックの方向へ流れているという事実をよく知っていて、アメリカ人が頑なにフォークのみに固執することへのいら立ちと、その要求に堪えて「風に吹かれて」ばかりを歌わされることに辟易としていたに違いありません。
そこに、ニューポートでのディランのやむに已まれぬ思いの発露としての反乱があったのです。観衆は確かにブーイングもしたことでしょう。しかし、それは同時に「フォークロック」というものの誕生を意味する大きな出来事でもありました。
エレキギターを抱えたからと言って、ディランの音楽の本質が変わったわけではありません。ディランの音楽は、その後も円熟しながら、さらなるバリエーションを広げていくのです。
この映画の中ではディランの初期の曲がたくさん歌われていました。
・はけしい雨が降る
・追憶のハイウェイ61
・ミスター・タンブリン・マン
・北国の少女
・サブタレニアン・ホームシック・ブルース
・ライク・ア・ローリング・ストーン
・戦争の親玉
・時代は変わる
・風に吹かれて
etc
いずれも名曲と言われるもの揃いです。時代の生んだ寵児という側面はありますが、それも含めて大きなうねりとなっていた当時の面白い歴史的事象と捉えれば非常に興味深い点です。
ディランのマニアではない私のような者でも聞きたくなる歌です。彼も83歳(2025年㋂時点)とずいぶん高齢となりました。今のうちに、彼の歌の神髄に迫るべく聞いてみるのもgoodだと思います。
みなさんもYou tube 等で聞いてみてはいかがでしょうか。
ディランの歌は、特長のあるしゃがれた声と不思議な曲想が異様に際立っていますが、同時にその歌詞が日本のアーティストの詞調とは決定的に違うことに注目してみてください。きっと、作詞活動にとても役に立つことと思います。
そうしていただけると、このブログの趣旨である「作詞入門講座」の意義も解かってもらえると思いますので。
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